平成27年10月5日、JAXAのプレスリリースで「小惑星探査機「はやぶさ2」の目指す小惑星1999 JU3の名称決定について」が発表されました。『小惑星探査機「はやぶさ2」が目指す小惑星1999 JU3の名称が「Ryugu」に決定しました。』とのことです。
名称は公募で名称案を受け付けらけ、応募総数は7,336件で、「Ryugu」の提案者数は30件とのこと。私も 「Ryugu」に応募したひとりなので、せっかくなので私の応募について振り返ってみることにします。
目次
1999JU3の名称がRyuguに決定
ふとJAXAのページを訪れた時のこと、ホームページ上のお知らせに1999JU3の名称が『Ryugu』に決定したとのお知らせがありました。(以下、Jaxaのニュースの画面をキャプチャしたものです)
応募総数7,336件の中から選ばれた30人が応募した一案だそうで、確率で言えば0.4%(もっとも選考されているので確率では語れませんが・・・)ととても喜ばしい結果でした。
異例の早さで審査され決定
JAXAのホームページ上で小惑星1999JU3の名称が公募されたのは2015年7月22日から8月31までの期間、JAXAの審査を経て9月半ば頃にこの小惑星を発見したアメリカのLINER(リニア)というチームに名称提案が打診され、10月はじめには太陽系内小惑星の名称を管理するMinor Planet Centerの小惑星リストに「Ryugu」として登録されたとのことです。
ちなみに、小惑星の名称決定には通常は審査時間が3ヶ月程度かかるとのことで今回は半月ほどという実に異例の早さでの決定だったということです。
応募した名称と応募した順序
今回、私が応募した名称案は6つでした。
応募日時 | 名称 | 読み方 | 神話由来 | 申込番号 |
---|---|---|---|---|
(応募せず) | Clio | クリオ | ○ | - |
7/30 02:45 | Nushima | 沼島/ヌシマ | ○ | 4030 |
7/30 02:56 | Onokoro | オノコロ | ○ | 4031 |
7/30 02:58 | Onogoro | オノゴロ | ○ | 4032 |
7/30 03:42 | Koukou | 航行/コウコウ | × | 4035 |
7/30 07:52 | Mirai | 未来/ミライ | × | 8218 |
8/31 02:35 | Ryugu | 龍宮/リュウグウ | ○ | 9407 |
タイミングとしては3回、応募が始まって間もない7月30日と、締め切り間際の8月30日、8月31日でした。1999JU3の名称公募を知って考え始めた3案は7月30日、せっかくだしもう少し何かないかと思い考えた1案は8月30日、そして最後にもう一つだけ・・・と思って練り上げた案(それがRyugu)は8月31日と土壇場の1案。
まさにRyuguこと1999JU3を目指す「はやぶさ2」のスローガン「挑戦が力を生み、継続が力を深める」にも通ずるのかと思いました。はやぶさ2の道のりと比べればちっぽけですが・・・
名称案を決めた経緯とふりかえり
まずは前身、小惑星探査機「はやぶさ」(MUSES-C)より
はやぶさ2が目指す小惑星「1999JU3」、その名前を決めるために目をつけたのが、その前身「はやぶさ」の別名というか本来の名前というか第20号科学衛星 MUSES-C の“MUSES” でした。
MUSESというのはギリシャ神話の女神たちということで神話由来としては合致していました。1999JU3との関連性は見いだせませんでしたが、「はやぶさの目指した先(次の目標)」ということでこの名前からスタートしました。
ミューズ(ムーサ)はZeusの娘で、詩歌・音楽・舞踊・歴史の芸術・学問をつかさどる九女神だそうです。彼女らの名前は Calliope,Clio,Erato,Euterpe,Melpomene,Polyhymnia,Terpsichore,Thalia,Urania 、その中から選ぶことにしました。
「歴史」が一番しっくりくると思い調べると、歴史を司るのはClioという女神でした。JAXAの募集ページに小惑星の名称リスト(Minor Planet Names: Alphabetical List)が掲載されていたので検索してみるとClioは無し。これで応募しようと思ったのですが、もう少し調べて見るとClioはKlioとも書くそうでこちらはリストに存在しました。
こうなるとさすがにClioは登録済みの名前としてNGでしょう・・・
その他のミューズも調べて見ると全て登録済み(CalliopeもKalliopeで登録済み)でした。「天文の名前をつけるのに『天文学』の神はなしだろう」と却下したUraniaですらも登録されており、もはや有名所は全滅(既に命名済み)でした。
日本の神話より
ギリシャ神話は思い当たる名前はどれも命名済み。やはり日本神話かと思い調べ始めました。1999JU3は「水や有機物を含む物質があると推定されている」こと、「はやぶさ2のプロジェクトはそれを探す前人未踏のプロジェクトである」ことを念頭に置いて、日本神話の本をパラパラとめくって考え始めました。
ところがそれに合致する物語は見つけられず、それなら「初めて到達する小惑星」という線でネットを調べていると、兵庫県にある沼島が日本神話で最初に生み出された島、国生みの神話の最有力候補であるという情報を掴みました。
兵庫県南あわじ市〜沼島〜
くにうみの神話の島 沼島 のページです。
広大な碧い海に浮かぶ小さな島、広大な宇宙空間を冒険して到達する小さな惑星の名前にぴったりの名前だと思い、この「Nushima(ヌシマ)」を第一案としました。
この「沼島」は現存の島の名前、神話上では「オノコロ島」または「オノゴロ島」と語られていた島です。そこで「Onokoro(オノコロ)」と「Onogoro(オノゴロ)」も第二案、第三案としました。
そして、広大な宇宙の航行がミッションということで「Koukou(コウコウ)」という名前も・・・と言いたいところですが、この第四案は実はとある理由でこの言葉をこじつけて応募したいと考えていました。それらしい理由が見つかったので、ここで「Koukou(コウコウ)」も応募しました。
せっかくなので締め切り間際、再度候補を考える
1999JU3の名称案応募も終え、しばらくは他に何かいい名前が思い浮かんだら応募しようと思っていました。特にこれといった案も思いつかないまま締め切り前日の8月30日、せっかくなのでもう1案くらい応募するかと思いパソコンに向かいました。
せっかく日本で名付けるのだから日本語がいいとは思ってました。これまでの案は神話に重ねる形で考えていましたが、今回は「はやぶさ2が〜に到着しました。」と言ってしっくりくる名前を軸に考え始めました。
はやぶさで挑戦し、はやぶさ2で本格的な研究に挑む、ここから日本のみならず人類の未来が開けてくるのかもな・・・ということで「Mirai(ミライ)」を応募しました。これは神話に由来しない名称案です。
やはり神話由来の名称を。
今回推奨されているのは神話に由来する名称です。最後くらいは神話由来の名称で締めたいと思い、いまいちど考えを巡らせました。
はやぶさ2と言えば「小惑星からのサンプルリターン」、それに最初の「沼島」を案とした時に浮かんでいた碧い広大な海に浮かぶ小さな島のイメージを重ね、未来へと繋げていくに相応しい通過点は何かなと考えていくと・・・
ふと浦島太郎の物語が思い浮かびました。浦島伝説なら神話由来とも言えそうです。物語の最後で玉手箱を開けておじいさんになってしまう部分が引っかかりましたが、都合良く解釈してみると「まだ知り得ない物が出てくるので『煙』で表現している。持ち帰った成果があまりにも大量で、それが何であるかを解析しきる頃にはそうとうの年月が経過しているのだろうな」と・・・。
名称応募に向けさらにイメージを深めていき、浦島伝説で「〜に到着しました」と言えば・・・そう「竜宮城」です。でも「Ryuguzyo」はなんだか間延びしてカッコ悪いのでもう少し洗練させて見ることにしました。小惑星は「お城」というイメージではないので「竜宮」にしてみました。「龍宮」の方がカッコいいな・・・(提案はアルファベットなので本質ではない)。
そうすると「Ryugu」はどうだろう。小惑星の名称リストにも該当する名前は無い様でした。短くて締まった感じがするし文字のバランスもいいです。ローマ字だと”u”のところに延ばす記号を書くのでしょうがそれは出来ないので却下、ローマ字で入力だと「Ryuuguu」と打ちますが蛇みたいに長く間延びしているのでこれも却下しました。
案を思いついた当初、小惑星の名前に「Ryugu」という音は多少抵抗感がありましたが、もともとが小惑星でない建物?場所?の名前なので当然でしょう。神話由来の名前を選ぶ以上はどれを選んでも抵抗感を感じるはずです。視覚と音もすっきりしてますし、はやぶさ2プロジェクトにもしっくりくる名前なので最後はこれで応募することにしました。
以下が応募した際の実際の文面です。
名称の種類(Category):
神話にちなんだ名称 Names from mythology
名称案 (Your proposal of the name):
RYUGU
理由(Reasons):
RYUGU(龍宮)を選んだのは日本の龍宮伝説から。諸説あるものの広大な海の中にあることが広大な宇宙にあることと重なり、そこへ辿りつくと宝物が与えられるという点、故郷へ帰るという点がはやぶさ2のプロジェクトに重なった為です。浦島太郎では玉手箱を開けておじいさんになってしまいますが、持ち帰った成果は解析に時間がかかる程多量な成果なのだろうと・・・
めいっぱい練った甲斐がありました。
喜ばしいことに、平成27年10月5日、JAXAのプレスリリースで「1999JU3の名前がRyuguに決まった」と発表されました。採用されたのは、最後の最後、締め切り日当日に提案した名前でした。
最初のインスピレーションを大切に与えられた条件やプロジェクトの背景を加味して練り上げ、さらには字数や文字のバランス、音など、公募の期間をめいっぱい使って考えたことが、JAXAもLINERチームも国際天文学連合(IAU)も文句なしの一語を選ぶに繋がったのではないかと思います。
公募に通るなど私にとって快挙だったので、今回の名称案募集を振り返ってみたのでした。
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